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民間事業者の合理的配慮義務化、運動にどう生かす?!

2021年5月に差別解消法が改正され、3年以内の施行(24年春)予定で、基本方針(ガイドライン)改定などの準備が進められています。改正のポイントと併せて、今後の取組方向について、ちゅうぶ代表理事の尾上浩二から話を聞きました。以下はその概要です(資料は尾上が作成したレジメから抜粋)。

1 はじめに

差別解消法の改正のポイントは「民間事業者の合理的配慮の義務付け」だが、これを運動に生かすには、障害当事者の目線から啓発や調査、助言、モニタリング、評価ができることが重要である。 ADAセンターのように民間ベースで情報提供したり、研修したり、障害者を支援したりという仕組みが作れないだろうか。(注 ADA:「障害を持つアメリカ人法(Americans with Disabilities Act) 1990年~アメリカの差別禁止法の性格、障害者権利条約にも大きな影響を与えた)」 

2 法改正のポイントと課題

遅くとも来年6月までには改正法は施行される。1年余りしかない。民間事業者での合理的配慮の提供義務化が効果的に実施されるように、運動的に盛り上げる必要がある。キャンペーンや各地でのグループセッション(困りごとと差別解消)などの取組みを展開していく。
 今回の法改正で、「国、地方公共団体の連携協力の責務」という規定が追加された。国においても、地方自治体においても相談窓口が機能するようにし、地方自治体レベルでは解決しない案件は国と連携して進めるということが求められる。私たちは、国のワンストップ窓口が必要だということを提起してきた。
 また、差別解消のための支援措置を強化するとされている。相談窓口の人材育成や確保、人材育成のためのテキストや研修プログラムの作成、事例収集とデータベース化が重要で、ぜひ、これを形にしたい。
 なお、引き続きの課題となるのが、差別の定義の問題である。関連差別は差別の定義に入ったが、間接差別を入れることはできなかった。障害女性の複合差別の問題について、「理解を促す」という文言は入ったが、差別の定義に「複合差別」は入っていない。これは、今後の総括所見を踏まえた障害者基本法の改正を受けた次の差別解消の改正へ向けての継続の取組となる。

3 相談窓口の現状と課題

○機能していない、格差が大きい  
差別解消法の制定時、「行政のスリム化のために新たな相談体制を作らない」という検討の経緯があり、相談窓口は地方自治体任せになってきた。今、各地方自治体での相談窓口の実態を見ると、ほとんどの自治体で窓口が機能していない、その一方で、ごく一部の自治体では年間の相談件数がかなり上がっており、大きな格差がある。内閣府の調査によると、「カウントしていない」が46%、「件数が不明」、「年間9件未満」も合わせると全体の96%にも達する。一方、0.6%の自治体は、年間100件以上あると回答している。

○権限のある省庁はどこなのか、わかりにくい  
差別解消法では、主務大臣制(許認可、指導監督、行政事務の所管省庁が担当する)をとっているので、主務大臣の担当につなぐことが重要だが、国の省庁の縦割り的な運用や、所管のわかりにくさや複数の省庁が所管する事例もあり、案件がたらい回しになり迷子になることがあった。

(例)チェーン店系のエステサロンの担当は経済産業省
(例)劇場の車いす席はバリアフリー法ガイドラインにも規定されているが、指導監督省庁は厚生労働省
(例)テーマパークのハードは国土交通省(運用マニュアルも含む)、接遇は経済産業省

○身近な窓口に限られるとコンフリクトが起きる場合もある
地方の自治体の場合、利害関係者が行政とつながっている場合もあり、差別問題の場合、必ずしも身近な自治体が相談窓口として適切とも言えない場合がある。

(例)障害を理由に自治会に入れない

4 改正後の相談体制(ワンストップ相談窓口の実現)

改正後の相談体制の特徴について以下に記載したが、内閣府にワンストップ窓口が設置されることは、法の実効性を高める上で、とても大きな力になる。また、内閣府の司令塔機能の下で、各地方公共団体、国における相談体制の再構築・強化を図られることを期待したい。内閣府の調査研究事業の報告では

  • 縦割り、迷子問題、複数省庁所管問題等を踏まえ、主務大臣の担当へつなぐ役割を果す窓口を内閣府が設置する(国の窓口の明確化:ワンストップ相談窓口)
  • 内閣府が国の相談体制の構築・強化に向けた司令塔を果す(研修・マニュアル作り、事例収集、分析)
  • 市町村の相談について、都道府県が連携・協力し、更に、市町村や都道府県の相談を国が連携・協力する重層的な相談体制とする。
  • コンフリクト課題を踏まえて、相談者は、市町村、都道府県、国のいずれに相談することもできる体制と整理された。
  • 合理的配慮の提供が義務付けられた事業所が具体的な対応を相談できることが明確化された。

ただ、この報告内容に基づいてどこまで実体化させられるかは、今後の運動次第である。

5 当事者からの発信提案が重要

○あらゆる領域に参加する市民であることの発信

9月に日本に対して出された権利条約の総括所見において、国連障害者権利委員会は「合理的配慮の拒否は、生活のあらゆる場面で障害を理由とする差別として認識されていない」という懸念を示し、「私的、公的領域を含む生活のあらゆる分野において合理的配慮が提供されることを確保すること」、「差別の禁止」、「包括的な救済の実施」を勧告した。
 障害者問題イコール福祉問題と世の中の認識はなりがち。日本の社会は特に医学モデル、パターナリズム(父権的温情主義)が強く、また、障害者のことは福祉関係の人に任せておけばいいという考え方が強い。
障害当事者が「あらゆる分野での障害者差別解消を求める法律」ができたことを自覚し、障害者も一人の市民として、福祉以外の様々な領域に参加し、サービスを使い生活していることを社会に知らせていく、差別解消法によって、障害者の存在を社会に開いていくことがとても大事だ。

例えば文化芸術などの分野での困った事例
  • 映画館で車椅子席は端にしかなく同伴者席もないので、友達と行っても一緒に座れない。
  • 呼吸器の音が迷惑なので映画館での鑑賞を断わられた。
  • 最後に盛り上がるロックコンサートなのに、最終曲の3つ前に退席するように指示された。
  • S席1万円のチケットを手に入れたのに5000円の一般の車椅子席に案内され差額返金もない。

○障害当事者だからこそ、ニーズと有効な解決策がわかる
 ホテルに宿泊しても、バリアフリーの状況が障害者の実態にあっていない場合も多い中で、東横インのバリアフリールームは安定した高評価である。これは、2006年ごろの違法改造問題が発覚したことに端を発したが、この時に、単に謝るだけでは、何もかわらなかった。DPIが抗議を行い、当事者が参画する検討会を作ることを要求し、どうあるべきか具体的に検討をおこなった成果で良くなった。また、単にバリアフリールームだけでなく、貸出備品も含めたバリアフリー情報のWEBでの公開など、とても良い事例である。
 こういう好事例を当事者参画の下にどんどん増やしていくべきだと思う。

6 民間事業所の好事例を広げていって、常識化する取組

 宝塚歌劇が、聴覚障害のファンがいたことをきっかけに字幕タブレットを貸し出すようになった。障害者の感動が胸を打つ。さらに、これに留まらずHPで障害者が知りたいWCの設備やレストランのテーブルなども写真入りで公開している。
 民間事業者のこのような自主的な好事例をどんどん広めていって、全体化していくことが大事だ。

7 民間版の障害者差別解消支援センター(日本版ADAセンター)を作ることを目指そう

 当事者参画により差別解消の仕組みを体系的に整備したのがアメリカのADAセンターである。全米10州にあり、ADAセンターを軸にしたネットワークも形成している。ADAを実施するための情報提供や研修を主な役割りとしている。問い合わせがあると出かけて行って、相談や助言、情報提供にあたる。
日本でも自治体の相談体制の充実だけでは相談がたくさん巻き起こることはないと思われる。 民間の側から、公的機関とタイアップして、的確な情報提供や、差別事例を相談窓口にあげる支援など、ADAセンターのような機関が必要だ。
 また、企業からの問い合わせがあった時に、情報提供し、企業側に障害当事者の意見を聴くことが参考になると思ってもらえるような取り組みが必要だ。

人びとが一緒になって、
あらゆる取っ手に手をかける
(ジュディヒューマン)

諦めずに皆であらゆることをして行こう。 (尾上談)

(聴き取り文責 堀)

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