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施設からの地域移行。

自立生活センター・ナビの小八重です。本来であれば、この時期クリスマスやお正月など、街もにぎやかなシーズンになるはずですが、新型コロナウイルスの第三波が到来し、GoToキャンペーンも年末は一斉停止になりそうで、緊迫した状況になっていますね。近所の外出もはばかられるような世の中になってしまいましたが、皆さんいかがお過ごしでしょうか?

今回は自立生活センター・ナビにおいて、実際に僕が取り組んだ地域移行のお話をさせていただければと思います。40代の男性Aさんは、重度の知的障害があり、大阪市内にある施設に長年入所されていました。僕がこの方の計画相談支援に関わるようになったのはちょうど4年前の今頃でした。Aさんは記憶力が非常に優れており、過去にあった出来事の日付も時間も人の名前もすべて克明に覚えていました。カレンダーがそのまま頭の中にあるようなイメージです。過去だけでなく、先の予定も余すことなく全て記憶していました。出かけるのが大好きで、施設職員との外出や、実費でのヘルパーさんとの買い物やカラオケをとても楽しみにされており、出かけた時のことはよく僕にも話してくれました。一方、施設内では不安定になることが多く、順番を守るのが苦手で、他の入所者に対する他害行為に及ぶことが多々ありました。気分が不安定になった時は、基本的には外部のクリニックの服薬調整で対応することが常でした。Aさんのいた施設はたくさんの障害児者が押し込められているようで、重い雰囲気の漂う場所でした。日の差し込まない体育館のようなところで、Aさんが他の入所者に紛れて部屋の隅っこでボーっと立っている姿が今でも忘れられません。
 
国が障害児支援施設の加齢児の地域移行を令和2年の3月末までに完了させる(現在は1年延長)ということで、今年の1月くらいからAさんの地域移行の検討をはじめました。主なメンバーは僕、Aさんの後見人、施設の担当スタッフ。さっそく、グループホームなど移行先探しを開始したのですが…。Aさんのような行動障害のある方を迎え入れてくれるようなホームは、そう簡単には見つかりませんでした。地域の受け入れの厳しい現実を肌で感じつつ、大阪市外まで手を広げ、見学なども実施しました。…が、今年4月に新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が発令されたため、表立った取り組みを行うことが困難になってきました。Aさんの施設でも入所者の外出、外からの訪問も禁止となり、本当に何もできなくなってしまいました。…そして、ようやく取り組みを再開できたのが6月くらい。一旦、取り組みを中止せざる得ない事態に陥ったことで、入居の話を進めていたグループホームなども空きが埋まっていたり、2ヶ月近い空白期間で、随分と状況が変わっていました。Aさん自身も外に出れないストレスからか、施設内での他害行為が増加。完全に振り出し状態に戻ってしまい、僕を含むAさんの地域移行チームも頭を抱えていました。

そんな中、普段から関りのある福祉施設の方から、他区で障害者向けのシェアハウスが開設されるという話を聞いた僕は、思い切ってAさんの体験入居を進めてみようと考え始めました。そのシェアハウスはこじんまりとしていましたが、Aさんのいた施設とは何から何まで対照的な少人数のアットホームな雰囲気でした。スタッフの方も親切で、ここならAさんものびのびと生活できるのではないかと思ったのです。ですが、長年施設にいたAさんがうまく馴染めるかどうかは不安でした。…そんなこんなで体験日を迎えた訳ですが、その時にAさんの身に起こった変化は大きいものでした。精神面での不安定さがまったく鳴りを潜め、他害行為も見られなくなり、施設にいた頃の様子が嘘かのように落ち着いていたのです。体験中の様子を見に行った僕も後見人さんも驚きました。環境はここまで人に変化をもたらすものなのかと…。

現在、Aさんはシェアハウスに正式に入居し、施設時代とはまったく違った生活を送っています。平日の昼間は日中活動に通い、休日は自宅でテレビを見たり、近所に買い物に出かけたりして過ごされています。僕はこの間、Aさんのように重度の行動障害があっても、身を置く環境次第で自分らしく地域で生活を送れるということを知りました。この取り組みは僕にとっても非常に貴重な経験となり、また、Aさんの地域移行は色々な可能性というものを僕に教えてくれたような気がします。

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