強制不妊手術裁判 不当判決
2020年11月30日(月)大阪地方裁判所で強制不妊手術裁判が行われた。今回は新型コロナウイルスの影響で裁判自体は傍聴者数に限りがあり傍聴することができなかったが、裁判後の報告集会はZoom視聴で参加した。
原告の請求を棄却する
今回の裁判は一次訴訟(空ひばりさん・後天性知的障害)、二次訴訟(野村さん夫婦・聴覚障害)の合同裁判の判決。裁判傍聴者数は全体で29名程だった。空さんは2018年9月に初めて訴訟をし、野村さんは翌年1月より訴訟をし、2組とも約1年10カ月に渡り、国と闘い、長い裁判に耐えてきた。その判決内容は、「原告の請求をいずれも棄却する」「訴訟費用は原告負担とする」というあまりにも酷いものだった。
違憲判断 しかし、除斥期間に阻まれる
判決言い渡しのあとは、裁判長が引き続き判決理由を読み上げた。憲法13条や14条1項に反する人権侵害として「違憲」であることや障害者の司法アクセス(法律関係の情報を取り入れて裁判を起こしたりすること)が難しかったということも認めていた。しかし「除斥期間(事件発生から20年経ったら損害賠償請求を認めない法律)」の存在が原告たちの訴えを阻んだ。判決の中で裁判長は「優生保護法が障害者への差別や偏見を助長したことは否定できないが、原告が提訴できない状況を国が意図的に作り出したとまでは、認められないし、救済についての立法措置が必要不可欠だったとは言えない。違法とすることはできない。」と話している。どこまで当事者の思いを踏みにじれば気が済むのか。国による法律で強制的に手術を受けさせられたことに加え、勇気をもって訴えたにもかかわらず裁判所は最後まで全く聞く耳を持たないまま最悪な判決となってしまった。
取り残されていることをわかってほしい。すごく悔しい。
判決後は報告集会。直接会場に集まり参加する方と、Zoom配信による視聴と2つの参加形態により報告集会が実施された。参加者100名を超える中、報告集会が行われた。
最初に弁護団による裁判判決概要の説明が行われ、改めて判決の不当さを訴えた。今回の裁判では「子どもを産むか産まないかを決める権利、平等に扱われる権利、憲法第13条や14条1項の平等違反を認めた初めての判決であったが、これまで仙台での判決の際にも言われた「除斥期間」の壁は超えられなかった」と悲しみを露わにした。
次に大聴協副会長の磯野氏の一言。「聴覚障害者として失望した。野村夫妻は本当に大きな決意で裁判に臨み、精神的にも身体的にも大きな負担を抱えながらがんばってきた。なのにこの判決で、とても心が痛んだ。50年以上前、福祉もまだまだの時代。手話も使えずいじめもあった中、情報を手にいれることの難しさもあった。今回の判決は私たちのこのような状況を汲んでくれていたのか疑問が残る。今後も支援していきたい」と話してくれた。
問うネットの臼井氏は自らの学生時代に、ろう学校の教師から「手話は動物の言語だ」と言われた経験を語られたあと、「除斥期間」について言及した。「この間の裁判の状況において、傍聴席に初めて情報保障がつくなど、約2年の間で裁判所の姿勢も変わってきたにもかかわらず、情報保障の制度が乏しいままなのが実情。情報保障に関しては個人の努力任せにしたままではいけないし、「司法アクセス」ができるようにするためにも、障害者が参加できる社会にしていきたいと思う」と話した。
DPI日本会議副議長の尾上氏は冒頭に「仙台、東京に続く3つ目の請求棄却。いったい何度私たち障害者をないがしろにしたら気が済むのか?司法はいったい何のためにあるのか?との思いを強くした。今回の判決は、私たちに何も向き合ってくれていない」と声を震わせながら訴えたあと、「生殖補助医療」に関する法律についても言及した。「優生思想に連なる条文が入った法律が出され、そのまま通りそうな状況と、今回の判決が重なって感じる。私たちが住む社会は、優生思想、優生保護法の被害にいまだに真剣に向き合っていない。この社会が優生思想と向き合い被害者に謝罪と補償が行われるまで今後も共に頑張っていきたい」と締めくくられた。
その後は弁護士団長の辻川氏が今回の判決に対し、弁護団として至らなかったと謝罪の言葉を述べられた後、今後は控訴をし、司法アクセス権についてもっと言及し、訴えを続けていきたいと話した。
最後に原告である野村夫妻が「裁判長の話はおかしいのではないか。障害者に対する差別があると思う。私たち夫婦からするといじめられているように感じる。我慢できる話ではない。不妊手術をされたことへのこの判決は、本当に悔しい。除斥期間で切られたことに怒りを覚える。私たちは司法アクセスもわからない、不妊手術をされたこともわからなかった。障害者を差別するのではなく、平等に扱ってほしい。障害者はさまざまな情報を受け取ったりしにくいということがある、ふだんの生活のなかでも、取り残されている。このようなことをわかってほしかった。すごく悔しい。自分のできることをもっと考えていきたい」と判決に対する悔しい思いを述べられた。
今後も闘っていく
今回、私は問うネット事務局として報告集会ではZoomで視聴しつつ要約筆記要員で参加させてもらったが、筆記をしながら悔しい気持ちでいた。優生保護法は国が意図して「障害者に子どもを産ませないようにした法律」であり、100%国が悪い。障害があることを理由に、何も知らされないまま手術をされ、時間が経ってからその事実に気づいたときには既に元の体に戻せないということだけが残り、どこにぶつけていいか分からない悔しい気持ちを抱えながら生きてきた原告たちのことを思うと、同じ障害者として心が握り潰されるような憤りを感じた。みんなと同じように好きな人と結婚して子どもを産み育てる権利を奪っておきながら「ごめんなさい」の一言も言えず、どこまで障害者のことを踏みにじるつもりなのか、考えれば考えるほど腹立たしくてしかたがありません。
今回の判決は到底納得できるものではないし、今後も闘っていくことを改めて強く思った。社会にはまだまだ差別や偏見があるが、私たちは生きている限りそれらと闘っていかなければならない。闘っていく相手が一般市民であろうと、国であろうと、私たちは私たちの当たり前の権利を諦めるつもりはない。一人の力じゃ難しいことも、仲間がいれば強くなれると信じて、今後も一丸となって取り組んでいきたい。
文責: ナビ 東
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